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毎晩こっそり屋敷を抜け出し、明け方まで帰らない若い足軽。同僚に問い詰められて打ち明けたのは、川の底の御殿で美しい女と結婚したという話でした。小泉八雲の『忠五郎のはなし』は、最後の一言で景色ががらりと変わる怪談です。
この記事では、青空文庫で公開されている小泉八雲『忠五郎のはなし』(田部隆次訳)の図書カードNo.59430の本文(底本『小泉八雲全集第八卷 家庭版』第一書房)をもとに、小泉八雲『忠五郎のはなし』について5つのポイントで整理します。後半の、『忠五郎のはなし』を読み返すときの注目点は、この記事の提案です。
※この記事は、2026年10月時点で青空文庫で公開されている小泉八雲『忠五郎のはなし』(田部隆次訳)に掲載されている内容をもとにしています。この記事は、青空文庫で公開されている田部隆次訳の本文をもとにしています。訳によって言葉づかいが違うことがあります。
『忠五郎のはなし』とは
原題はTHE STORY OF CHUGORO
青空文庫では、小泉八雲の『忠五郎のはなし』が、田部隆次訳で公開されています。原題は「THE STORY OF CHUGORO」です。
底本
底本は『小泉八雲全集第八卷 家庭版』(第一書房、1937年1月15日発行)とされています。
舞台は江戸小石川
話は、「昔、江戸小石川に鈴木という旗本があって、屋敷は江戸川の岸、中の橋に近い所にあった」という書き出しで始まります。短い話なので、一度に読み通せる長さです。入力は館野浩美さん、校正は大久保ゆうさんで、2020年5月27日に作成されたファイルと記されています。寝る前の短い時間に読むのにも向いています。
| 項目 | 本文から分かること |
|---|---|
| 主人公 | 旗本・鈴木の家来の足軽、忠五郎 |
| 舞台 | 江戸小石川、江戸川の岸、中の橋の近く |
| 打ち明ける相手 | 年取った同僚 |
| 結末で語る人 | 漢方医 |
忠五郎はどんな若者?
評判のよい足軽
忠五郎は、容貌の立派な、大層愛想のいい、怜悧な若者で、同僚の受けも大変よかったと書かれています。
身持もよかった
仕えて数年になるが、非難の打ち所のないほど身持もよかったとされています。
毎夜の外出
ところが同僚たちは、忠五郎が毎夜、庭から抜け出して明け方少し前まで屋敷にいないことに気づきます。初めは誰も何も言いませんでしたが、彼が蒼白く衰えてきたので、干渉することにしたと書かれています。
川岸の女との出会い
五か月ほど前のこと
忠五郎の打ち明け話によると、春の初めのある晩、両親を訪ねて屋敷へ帰る途中、表門から遠くない川岸に、身なりの立派な若い女が一人立っていました。
橋まで一緒に
女は「あの橋まで私と一緒に歩いて下さいませんか」と言い、屋敷へ出入りする忠五郎を度々見ていて好きになった、夫に持ちたいと話します。
深い川の中へ
橋に近づくと、女は忠五郎を川のふちまで連れて行き、深い水の中へ引き込みました。女の手にさわられると、夢の中で走ろうとしても手足が動かない時のような気がした、と語られています。
水の底の御殿
濡れていない世界
気がつくと、大層明るい大きな御殿らしい所を歩いていて、濡れてもいなければ寒くもなかったと語られます。
誰もいない部屋
部屋の数は限りがないほどで、どれも空だったが非常に立派だったとされています。最後に千畳敷の客間に着き、座布団が並べてあるのに客は見えませんでした。
浦島の話を思い出す
忠五郎は浦島の話を思い出し、女は神女かもしれないと思いましたが、こわくて何も聞けなかったと書かれています。
『忠五郎のはなし』 5つのポイント
1. 評判のよい若者
主人公は、同僚の受けもよく身持もよい足軽の忠五郎です。
2. 川の底での婚礼
女に連れられた水の底の御殿で、七生までの誓いをして婚礼を挙げます。
3. 秘密の約束
女は、結婚を人に話したら永久に別れなければならないと告げます。
4. 打ち明けた夜
同僚に打ち明けた晩、女は初めて橋に現れず、忠五郎は倒れます。
5. 最後の一言
医者が女の正体を明かすところで、話は終わります。
5つのポイント早見表
| ポイント | 青空文庫で公開されている小泉八雲『忠五郎のはなし』(田部隆次訳)の案内 |
|---|---|
| 評判のよい若者 | 評判のよい足軽が主人公 |
| 川の底での婚礼 | 水の底の御殿で結婚 |
| 秘密の約束 | 人に話したら別れる |
| 打ち明けた夜 | 話した夜に女が来ない |
| 最後の一言 | 正体は医者が明かす |
婚礼の夜の描写
床の間の灯
千畳敷の客間では、向こうの床の間の前に灯がともり、宴会のように座布団が並べてありましたが、客は見えなかったと書かれています。
女中たちと酒肴
やがて女中たちが入ってきて酒肴を置き、女は「今晩婚礼の式を挙げましょう、これが結婚の御馳走です」と言います。
七生までの誓い
二人は七生までの誓いをして、宴会の後、用意の部屋へ案内されたと語られています。忠五郎は、女のにっこりが全世界の何よりも綺麗だと思い、心から「ええ」と答えました。
帰り道
帰るときは、女が手首を取ると一切が暗くなり、気がつくと中の橋の近くの川岸に独りで立っていたとされています。屋敷へ戻っても、まだ寺の鐘は鳴り出していませんでした。
正体を知ってから気づく伏線
蒼白く衰えていく
物語の初めから、忠五郎は外出のたびに蒼白く衰えていったと書かれています。医者の「血がない」という言葉と並べると、毎晩何が起きていたのかが見えてきます。
深い所
忠五郎自身が「御承知の通りあそこは深い所です」と言っています。川の深い場所、橋の下という場所が、最後の正体とつながります。
夜明けまで置けない理由
女が言えない理由として、夜明けまでは置けないと言ったことも、昼に見たらいやな動物に見える、という医者の言葉と重ねて読むことができます。これは本文から考えられる読み方の一つで、ほかの読み方があってもかまいません。読み終えたら、自分ならどこで気づけたかを振り返ってみるのも楽しみ方です。
女が課した秘密の約束
夜明けまでは置けない
女は朝早く忠五郎を起こし、夜明けまでここに置いては二人とも命が危ないと告げて、屋敷へ送り返します。
毎晩、同じ時刻に
毎晩、初めて会った時刻に橋のわきで待っていてほしいと頼みます。
話したら永久の別れ
何よりも、この結婚は秘密で、人に話したら永久に別れなければならなくなる、と念を押します。忠五郎は浦島の運命を思い出しながら、言う通りにすると約束したと書かれています。
同僚の心配と忠告
魅されているのでは
話を聞いた年寄りの足軽は、驚き恐れます。忠五郎の話はうそではないと感じながら、何か悪い力が見せる迷いかもしれないと考えたと書かれています。
叱るより憐れむ
もし本当に魅されているなら、この若者は叱るよりむしろ憐れむべきで、無理に干渉すればかえって害になると老人は思います。
用心しなさい
そこで老人は、誰にも言わないと約束し、行って女に会いなさい、ただし用心しなさい、とやさしく答えます。
約束を破った夜
女はいなかった
数時間後、忠五郎は妙に落胆した様子で帰ってきます。女は、初めてその場所にいなかったのです。
自分の誤り
忠五郎は、話したのは自分の誤りだった、約束を破ったのはこの上もない愚かなことだった、と言って倒れます。同僚は慰めようとしましたが、忠五郎は物を言わなくなり、悪寒のように頭から足まで震え出したと書かれています。
日暮れに死ぬ
明け方の寺の鐘が鳴り出したころ起き上がろうとしましたが、生気もなく倒れ、手は尽くされたものの日暮れに亡くなったと書かれています。
医者が明かした女の正体
血がない
呼ばれた漢方医は、この人には血がない、脈管には水ばかりしかない、と言います。
初めてではない
老同僚が話をすると、医者は、その女に命を取られたのはこの人が初めてではないと言います。昔からこの川に出ていて、若い人の血が好きなのだと語ります。
狐でも龍でもない
狐か、蛇か、龍かと尋ねる足軽に、医者は首を振り、昼に橋の下で見たら実にいやな動物に見えるだろう、と答えます。そして最後に、「ただの蟇さ、――大きな醜い蟇さ」と明かします。蟇(ひき)は、ヒキガエルのことです。
『忠五郎のはなし』を読み返すときの注目点
ここからは、青空文庫で公開されている小泉八雲『忠五郎のはなし』(田部隆次訳)の案内をもとにした、この記事の提案です。
ここで挙げるのは、本文をもとにした読み返し方の例です。
女のにっこり
女は何度も「にっこり」します。忠五郎が勝てなかったその笑顔が、最後の一言を知ったあとにどう見えるか、読み比べてみましょう。
浦島の話との比較
忠五郎自身が浦島を思い出しています。水の底の御殿、約束、別れという流れを、浦島の話と並べてみるのも一つの読み方です。
誰もいない御殿
部屋がすべて空で、宴会の座布団にも客がいない御殿。最初に読んだときは気にならなかった描写が、二度目には違って見えるかもしれません。
老人の判断
「叱るより憐れむべき」と考えた老人のやさしさが、結果として何を招いたのかも、考えてみたくなる点です。
よくある質問
どこで読める?
青空文庫で、田部隆次訳の本文が公開されています。
舞台はどこ?
江戸小石川の旗本・鈴木の屋敷で、江戸川の岸、中の橋に近い所とされています。
忠五郎はなぜ死んだ?
医者は、この人には血がなく、脈管には水ばかりしかないと言い、女に命を取られたと話しています。
女の正体は?
医者は、狐でも蛇でも龍でもなく、昼に橋の下で見たら実にいやな動物だと答え、最後に「ただの蟇さ、――大きな醜い蟇さ」と答えています。
同僚はなぜ止めなかった?
年寄りの足軽は、本当に魅されているなら叱るより憐れむべきで、無理に干渉すればかえって害になると考えたと書かれています。
忠五郎は女を何だと思った?
浦島の話を思い出し、神女かもしれないと思ったものの、こわくて何も聞けなかったとされています。
約束は何だった?
結婚は秘密で、人に話したら永久に別れなければならない、という約束でした。
『忠五郎のはなし』は、最後の一言で美しい話が反転する
小泉八雲の『忠五郎のはなし』は、評判のよい足軽が、川の底の御殿で美しい女と結婚する話です。秘密を同僚に打ち明けた夜、女は現れず、忠五郎は血を失って亡くなります。医者が明かす女の正体を知ってから読み返すと、女の「にっこり」が違って見えてきます。